荒木先生のトークショーが開催されるだと?
みんなジョジョ好き?好きだよね?好きだからこんな記事読みに来てるんでしょ?嫌いだったら来ないよね?
そっかー、好きなのかー、うんうん、わかるよ。私もジョジョが好きだ。大好きだ。超好きだ。こんなふうに語彙力がどこかに飛んでいっちゃうくらいには大好きだ。
手塚治虫記念館では開館30周年記念トークイベントとして2025年3月15日「荒木飛呂彦~創作の地図~」を開催いたします。
荒木先生には手塚先生との思い出や創作の原点などいろいろなお話をしていただきます。
お申込み等はHPをご参照ください。https://t.co/4GwkTNeaip pic.twitter.com/qYBMXBcXZ4
— 宝塚市立手塚治虫記念館 (@OTMM_Staff) January 23, 2025
でね、ジョジョのね、創造主であり唯一神の荒木飛呂彦先生がさ、トークショーするって聞いてさ、そりゃもう応募するよね。往復ハガキとか言う令和に似つかわしくない謎フォーマットであろうと余裕で応募するよね。仮にそれがモンテビデオの港で売ってる絵葉書で応募しろっていうもっと無茶なフォーマットだとしてもなんとか手に入れて応募するよね。いや知らないけどさ、モンテビデオの港の絵葉書は。
高倍率は必至
ほら、君らみたいなジョジョファン、ジョジョマニア、ジョジョオタク、ジョジョラー(もう呼び方なんてなんでもいいや)がうようよいるせいでさ、倍率は絶対高くなるじゃん?てことは当たらないじゃん?悔しいじゃん?くそう、落選するくらいならこっちから願い下げだ、泣きたくないからそもそも応募なんてするものかーーとはやっぱならないわけで。普通に応募しちゃうわけで。だってほら、往復ハガキって面倒じゃあないか。意外と離脱する層いたりするんじゃね?と淡い期待。そんなこんなで、(コンビニで売ってるってガセ情報を掴ませたやつ控えめに言って〇ろす)郵便局に買いに行ってきた。書いた。送った。〜中略〜当たった(その中略の部分の心の機微が一番エモそうだけど省略)。

震えるぞハンド
見事当選した心の綺麗な私
バイカル湖くらい心の澄んだ私はやっぱりこういうの当たっちゃう。自分よりむしろ他の人の当選を願ってたからかな(嘘です、自分以外に未曾有の郵便事故起これって願ってた。関係ないけどさ、SASUKEって競争相手の失敗にめちゃ悔しがるよね、あれなんで?どういう心持ちなの?)。ごめんなんか、気分を害した人がいたらそのままそっとこのページを閉じて他の人のレビューを読みにいって欲しい。
とにかく私は当ててしまったんだ。こんなコールタールくらいドス黒い心を持った私に当たったんだからバチカンから奇蹟認定されてほしい。いやされるべき。
後で知った話なのだが、8000通以上の応募があったそうだ。控えめに言って10倍だ。これは当たらなかった人が不運だったというよりは当たった人が人一倍幸運だったということだろう。
宝塚か…
宝塚。東京在住の私にとってはまさかの場所だがこれはもう仕方がない。手塚治虫記念館のイベントなのだからそりゃあ兵庫県宝塚市になるさ。物事には理由が必要だが、今回ばかりはグウの音もでないあまりにも明確な理由だ。むしろ荒木先生を招聘できるほどのパワーをもった場所なのだ。迷わず行くさ。しかし兵庫の宝塚って、関東民にとってピンポイントであそこねってならないわけで、最寄りの空港が神戸なのかどこなのかも知れず。歌劇団好きの方々にとっては常識なのかもしれないが、自分にはちょっと未知。
ふむ、あー伊丹が近いのね、オーケー、秒で予約。心の中で思ったらスデに行動は終わってた。
前日に関西入り
羽田、花粉がきつい。来月から使えなくなるからっていう個人的な都合で朝から羽田空港のマッサージに行くことにした(カード特典で無料なんだぜ)。が、マッサージは生憎予約が取れなかったので足湯を選んだ。

これが一人用足湯だ。
ちなみにハーブティーが出された。ジョニィの爪が伸びそうだな、とか思いながらいただく。しかもこの足湯、テーブルでいろいろ好きなことをしてていいそうなので、パソコン作業をしている人もいる。電源も完備だ。
ふとここで、今回の旅を占ってみた。そう、三部でおなじみ荒木先生デザインのタロットカードだ。

何個買っても揃わなくて二次流通で泣きながら揃えた
余談だけどマジでタロットカードエディションて揃えるの難しいよね。多分全部揃えようとしたら今だと何万円もしちゃうよね。てかジョジョのアドベンチャーバトルカードって良いよね。原作絵だもんね。まじで六部までしか出てないのが惜しい。いつまででも待ってるから七部以降のも販売して欲しい。(足湯の方が余談なんじゃないかと思ったそこのあなた、圧倒的に正しい)
えいや、とタロットを一枚引く。

普通にかっこいい
とにかく私はスターを引いた。希望、そして夢が叶うと言う暗示だ。最高の旅になりそうじゃあないか。
ってこの店の名前「LUCK」だった。おい頭にPをつけるんじゃないよそこのジョジョオタクども。どこの誰が黒騎士にインスパイアされて店名決めるんだよ。

足湯から振り返るとチェックインカウンター
フライトコードなし、伊丹へ向かえ!
飛行機を選ぶなんて不吉じゃあないかと思ったあなたは概ね正しい。そう、ジョジョにおいて飛行機とは移動手段では亡く舞台装置だ。まず墜ちると思っていいし、大体その通りになる。新幹線とも迷ったのだが電車であってもどうせ老化させられたりするので、私は飛ぶことを選択した。フライトコードは普通にJL121だった。

massacre!(マサクゥル:みな殺し)
幸い舌を抜かれることもなく無事着陸した。多分ジョセフがいなかったからだろう。一緒に飛行機に乗りたくないランキングぶっちぎりの一位だ。
そして伊丹に着くなりワインを頂いてる(酒!飲まずにはいられないッ!)。べつに私を怒る上官はいないのだからいいだろう(飲んどる場合だ)。

「次の遺体」とゴールに…乾杯
兵庫県に到着
前乗りはとにかく正義なんよ。当日欠航になったら目も当てられないじゃん。とりあえず体を関西に送っておけば安心じゃんてな具合で人生初の神戸。週末はどこも高いのでとりあえずこの世のチープ感を寄せ集めたような安ホテルに投宿。

ザ・寝るだけの部屋

お題:宿に出たら絶対嫌なタイプのスタンド

絶賛発売中。とりあえずこれでも読んで翌日を迎えるか。

えー、すご。
2025年3月15日
さあ、当日。
ついにこの日が来てしまった。神との邂逅を果たす約束の日である。もうずっと前に、原宿のキャットストリートで購入したシアーハートアタックのTシャツを着ておく。

コッチヲ見ロ…ッ
現地に着いたら、実際に荒木先生に会えるのか。しかしこんな幸せが有って良いのだろうか。幸せすぎて怖い。なぜか私は強烈に怖くなっていたのである。ただあなたの優しさが怖かった、と神田川でも歌われているように、失いたくないほどの幸せはむしろ恐怖を呼ぶのだと実感した。そして、えんじ色の阪急電車はちゃんと私を彼の地へ送り届けてくれた(誰も老化していなかった)。
宝塚到着

これが宝塚ホテルだ。
日常とここには幸せな断絶があるのだろう。近くには川があり、此岸と彼岸はまるで夢の境界線だ。
ここに来たものはみな劇画の口調になり、流麗たるロミオやオスカルに恋をする。そう、この地では何千回もフランス革命が起きて、何千回も風と共に去りぬるのだ。

彫刻にもジョジョ味があるッ!
ルマンのサンドイッチ
会場である宝塚ホテルを横目に私はサンドイッチを買い求めに歩いた。「Le Mans(ルマン)」、と言う名のその店は街の名物だそうで、せっかくだから食べておこうと思ったのだ。
サンジェルマンとサンドイッチルマン、なんだか響きも似ているし、私にはシアーハートアタックがいるから吉良に爆殺される恐れもない。とのことで、買って、食した。

おもむろにSR露伴

いただきます
宝塚ホテルの前の、ぽつねんと佇むベンチでサンドイッチを喰む私。ひとりだけど、さみしくはない。だって、ねえ?これから、ねえ。ふふ。
事前集合
そうこうしている間に集合時間になった。一斉に捌くのは難しいので当選番号によってティア分けと集合時間調整がされているのだ。くそう。若い番号が羨ましい。
800人のオタクを収容してくれるあまりにも寛容な宝塚ホテルへと足を踏み入れた。ああそうか、その属性には耐性がありそうだな。宝塚だもんな。
中は絢爛豪華。美しい階段。キョドって写真撮れなかったんで誰かのを参考にされたし。
はい、見つけましたみだりに呼んではいけない神の名。

宝寿 1F のやつね

ここが宝寿

ここで本人確認が行われるぞ
当選ハガキと公的証明書、そして1500円を差し出す。なんて安いんだろう。この世で最も有意義な1500円の使い道ではないだろうか。今まで思ってた「セールのジャイアントコーン(赤青黄)を15個買って毎食後贅沢に食う」を余裕で超えていった。
しかもこのハガキを見せると手塚治虫記念館に無料で入場できるそうな。入館料は700円、実質トークショーは800円じゃあないか。この世で最も有意義な800円の使(以下略)
はした金(あえてこう言おう)を払っていよいよ参加券がもらえるかと思いきや、その先の角を曲がった場所に再度並ぶように促される。いったい何をするんだ?

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

並び途中で座席表の紙渡された
ついに、私の番が来た。座席の書かれた参加券を渡される瞬間「Hail 2 U」と聞こえた気がしたんだ(幻聴)。
私の当選番号は4xx台、800人とするとほぼ真ん中なので、前半分なら勝ち、後ろ半分なら負けだ。
いざ、リビール。

13列目(13/15)あああああああ
後ろから③列目、現実は非常である。
くそおおおおお。これなら番号順の方がまだマシだったわ。…あれだろうな、シアーハートアタックのTシャツ着てきたからだろうな。後方は多分やべーやつが固まってるんだろうな。チョコラータが好きなやつとかしかいねーんだろうな。多分最前列にはエリナファンとか配置されてんな。
手塚治虫記念館を訪問
座席が確定したところで、本番までは時間がある。そして会場である宝寿の間にはまだ「立 禁止」である。せっかくなので、トークショーをより楽しむための予習として手塚治虫記念館に行ってみることにした。
到着するとえらく立派な火の鳥に出迎えられる。

多分これ剥製。捕まえた人不老不死。

これマジで良かった

エグい。吐きそうなくらい多作(良い意味で)
少年漫画の、青年漫画の、ひいては少女漫画まで、あらゆるストーリー漫画の萌芽がここにあった。
カンブリア期には今の生物の種目が一気に誕生し多様性を獲得したというが、まさにそれを一人の人間が起こしていたのだ。
誤解を恐れず言うのならば、手塚治虫とは漫画界でカンブリア爆発を起こした天才だ。
荒木先生はその出自からして手塚先生抜きでは語れないし、手塚治虫氏がいなかったら我々はジョジョを読めていなかったかもしれない。大袈裟ではなく割とマジで。
国民的娯楽になるまで日本の漫画を(いわんやアニメをや)発展させた人物なのに、なぜ手塚氏に国民栄誉賞が与えられていないのか本当に不思議で仕方がない。

楽しかった。
手塚治虫記念館開館30周年記念トークイベント「荒木飛呂彦~創作の地図~」@宝塚ホテル宝寿の間
開始時刻。さあ、時は来た。SBR(すごい・ビックな・歴史的イベント)の開幕だ。
司会の人(mioさん)
MCは女性。聞きやすくて明るい声は好印象。しかも髪は徐倫よろしくツートンカラーで、トリッシュを思わせる差し色だ。
いや大変だと思うよ、こんな大役任されてさ。800人のジョジョオタクを前に仕切るわけだから、黄金の精神の持ち主じゃなきゃ務まらんよね。ほんと、ご苦労様です。
突発的トラブルに対するケアや、テーマおよゲストに対する十分な知識など様々な点を鑑みてもこの方で適任だったのではないかと思う。また、後述するがこの方のおかげで私は素晴らしい体験をすることができた。FM宝塚でパーソナリティーをしているmioさんという方だ。覚えておこう。
宝塚市長登場
市長の挨拶だと?ガチで市を挙げてのイベントじゃあないか。
山﨑 晴恵氏という女性の市長だが、話し方が完全に劇画調なので、十中八九この人は歌劇団OGだと思った。声のトーンや抑揚が完全に舞台のそれなのだ。すごいなあ、市長にまでなれるんだ、やはり宝塚市は宝塚歌劇団を中心に動いているんだなあと思っていたその時の自分に言ってあげたい衝撃の事実があるんだけど、市長全く歌劇団員じゃなかった。つまりここに二つの可能性が浮上してくるのだ。
「A:宝塚市民は歌劇団の雰囲気を纏った人に票を投じる」
「B:ここで暮らすとみんなあのような仕上がりになる」
引き続き調査中だが、真相を知っている人がいたら是非とも教えて欲しい。
挨拶の内容としては、いかにこのイベントに当選したことが幸運であったか、という類のものだ。どうやら荒木先生から会場をあたためてきてくれと言われたらしい。政治家に指示を出す先生、それはあたかもウィルソンフィリップス上院議員に行けと命じるDIOのようだ。
開会の挨拶はこんなもんで、ああ〜イイっすかねぇ〜と、スティーブンスティールのモノマネをして締めたというガセ情報をここに紛れ込ませたかったが公人に対してあまりにも失礼なのでやめておこう。
荒木先生登場
MCの呼び込みによって、先生が現れた。割れんばかりの拍手。鳴り止まない。止むどころか次第に大きくなる拍手。ブラボー、おお‥ブラボー、全員がポルナレフ化してのけぞって手を叩いている。異様な光景だ。物理的にちょっと浮遊してそうだ。
私はというと、本物を目の前にして「あ、あら、アラアラアラアラアララア荒木先生…」とまるでウェカピポの時のDiggy-MO’みたいになってしまった。
直視して良いタイプの御神体だと判断し、私は荒木先生を見た。前方のひとは、近い。後方列の私はやはり遠い。そんな当たり前の気付きをありがとう。ああもっと表情まで見えたらなあ。だってジャイロがオペラグラスを否定するんだもんそんなもの持ってないよ。
はじめに言葉があった。「光あれ」とは言わなかったが神は言葉を話された。
ここからメモを元に覚えている範囲で書くが、もし間違っていたり、過不足あったり、解釈違いが有ったとしてもご容赦いただきたい。
また、言い切り文で書いてあったとしても基本的には敬語混じりで話されていたのでそちも注意されたし。さらに、後日JOJO Magazineが記事にするとアナウンスがあったので、そちらに記載される内容が公式発表である旨はご理解いただけると助かる。
お招きいただきありがたい、宝塚に訪れるのは初めて。
意外。兵庫県自体初めてらしい。
ルマンのサンドイッチをいただいた。タマゴサンド。ロゴが手塚先生のデザインのようだった。
え、先生も食べたの?しかもタマゴサンド?私もさっき頂いたばかり。カツサンドと迷った挙句タマゴの入っているセットにしたんだった。普段なら絶対カツ行ってたわ。朝の弱い胃よありがとう。
(手塚記念館に訪問したら)原画がすごい。手塚先生の木が上手い。
手塚先生の絵が上手いのはもちろん同意なのだが、荒木先生の木も大概すごいと思う。というか、プロが見るのはそこなのかという感じ。興味深い。
私ですか? (9部の進み具合を問われて)
待って今、荒木先生、質問に質問に返したぞ。ジョジョファンの中では最大の禁忌とされている「質問を質問で返す」行為を先生自体がしているじゃあないか。文脈状どう考えても荒木先生の進捗状況を伺っているのだが、手塚先生のことだと思ったのだろうか。没してなお漫画を描き続けていらっしゃるんじゃないかと荒木先生は思っているのかもしれない。あるいはほら、空海もまだ高野山では生きてるらしいし、手塚先生も市内では亡くなっていないとされている説にワンチャン賭けた荒木先生なりの地元配慮なのかもしれない。そうだよな、手塚先生が令和に漫画を描いていないって断定するのは悪魔の証明になっちゃうもんな。
9って良い。(9部になって主人公が)9人揃ったのは感慨深い。
数字に対する独特なフェチが発動している。確かによく考えたら暗殺チームとか9栄神とかも9人だもんな。
祖父母に連れられて湯治に2,3週間行っていた時に漫画を買ってもらって読んでいた。
これが原体験であり、そして漫画家になろうと思っていたそうだ。我々は先生の祖父母はもちろんそこへ赴かせたご両親にも感謝すべきだろう。
少年時代に好きだった漫画は巨人の星、W3やバンパイヤ。その後は愛と誠など
荒木先生は自分が影響受けたものを本当にストレートに教えてくれる。かっこつけたりとか玄人受けっぽいものを選ぶとかはしない。その姿勢は見習いたいものだ。
少年時代から漫画家になろうと考えていた
私も少年時代から何かひとかどの人間になりたいと思っていた。果たしてなれただろうか?
小学館に持ち込みに行こうとして、隣が集英社だったので手始めに小さい方から訪問した。そこでたまたま椛島さん(編集者)と出会った。
この偶然がなければ、ジョジョを読むことはなかったかもしれない。「牛に惹かれて善光寺」と同じ意味で「ちょっとビビって集英社」という慣用句を広めるべきではないだろうか。
手塚先生と握手したら、手がふわふわだった。父曰く達人は手が柔らかい。
私の手はとても柔らかいのだけれども、なんならコンプレックスだったのだけれども、今日からはむしろ自慢になるかもしれない。
初めて手塚先生に会ったのは中学生の時、サインをもらいに行った。
私は十代の頃、洗脳期のToshiの無料地方ショッピングモール巡業に意気揚々と行ったことがある。サインはもらえなかった。
手塚賞の授賞式で手塚先生の地雷を踏んでしまった。内容はちょっと言えない。
一体何を言ったのだろう。すごい気になるところ。そして後にバッドカンパニーの地雷を踏む仗助のシーンのリアリティに繋がるのか(繋がらない)。
ブラックジャック1巻の話の順番がすごい。
先生自らブラックジャックの1巻について、1話から順番にこういう話だという解説をしてくれた。贅沢すぎない?
ストーリーの内容はよく覚えてるのに、あれ今何話目だっけ?みたいな確認をするのがまるでジャイロのLessonみたいだなと思った。大事なのは数字ではなく中身ってことだよね。うん。
ひとりで社会や人のために命をかけて頑張っているのがヒーローの条件
かっけー。これ「ヒーローの条件とはなんですか?」とか聞かれたわけじゃなくて、話の流れでサラっと口にしたセリフだからね。名言製造機かよ。
手塚先生の集中線・カットバックがすごい
すごく通っぽい言い回しなので、これから誰かにに手塚治虫の凄さは?って聞かれたらこれ言ってみる。無駄にスゴ味が出せそう。
(BJの)本間先生が亡くなって現れるシーンはスタンドっぽい
これには会場が沸いて、みんな笑ってた。人面瘡とかもスタンドみたいだし、そこからスタンドの着想を得た可能性も無くは無い的なリップサービスも。寄せていこうというサービス精神が垣間見えた。
世の中に起こる全ての現象をスタンドとして考える。
森羅万象スタンド化と。この世のあらゆるものをスタンドにしてくれるということはずっとジョジョが続いてくれるということ。ベネ。
バンド名からスタンドを考えることもあるし、スタンド能力にバンド名を当てることもある。曲名からどんなスタンドか考えることも。
この曲名スタンドだったらやばそーじゃね、的なあの感じ先生もやってたんだ。きっと誰もがあるんじゃないかな。よく友達とやった遊びだよね。Master of PuppetsとかParanoid Androidとか言って盛り上がってたよね。
仕事中はあらゆる音楽をかけるが、日本語が入ってくると「何言ってんだよぉ」となる。
これは笑った。大親友の彼女のツレがパスタ作ったとかいう歌聴いたらGペンぶん投げそう。
盛り上げる時はAC/DCを聴く。
あやかってBack In Black聴きながらこの記事書いてる。
パットメセニーのCDは全部持ってる。
「ブートレグは?」とメモに走り書いてあるんだけどこれは荒木先生が言ったセリフなのか自分が抱いた疑問なのか定かではない。ごめん。
作品に影響した映画音楽はディアハンターのサントラ。
え先生ディアハンター好きなんだ。じゃあやっぱりバオーに出てくるウォーケンの由来はクリストファー・ウォーケンってことで決定じゃない?
人間讃歌と書いたのはたまたまだった。が、意外と深い。
コミックス1巻、物語のページを開く前、読者が最初に目にする言葉がそれだった。確かに、深い。私は荒木先生が人間讃歌で、手塚先生は生命讃歌(あるいは自然讃歌)だなと勝手に思っている。そして興味深いことに近年荒木先生の作風は生命讃歌の様相を呈しているように私には感じる。円熟期を迎えたこのタイミングで手塚記念館主催イベントで宝塚で話をしているのもまた縁を感じるのだが、考えすぎだろうか。
人間讃歌以外のものを描くとしたら、ロボットで戦う系のもの。
普通に見たい。乗るタイプだろうか、それともリモコン型だろうか、あるいはAIによって自ら動くタイプのものだろうか。
天から剣が降ってくるみたいな展開は封印している。
確かにジョジョの登場人物たちは自分で考えて状況を打開していっている。常に12億円が降ってこないかなと思いながら歩いている私はまだまだなのかもしれない。
手塚賞は手塚先生に直々に選んでもらった(ドヤ)
嬉しそうに語る荒木先生。何十年経った今でもきっとフレッシュな喜びのままなんだろうな。神様だから、とも付け加えてたな。そうか、神様にも神様がいるのか。あまりにも普通のことなのにまるで考えが及ばなかったな。まさかこんな気付きを得られるなんて。かつて祖父が私に語った「じいちゃんのな、じいちゃんがな」という時と同じ類の衝撃だ。
漫画家を目指すなら、漫画以外の作品に触れるといい
これはマジなんだよなあ。や、別に私は漫画家ではないが、漫画だけ読んでたら引き出しが漫画だけからになるし、そしたら新しいものって生まれんよね。荒木先生は積極的に他ジャンルから着想を得て、そのインスピレーションを漫画に昇華してる。我々がジョジョから音楽やファッションや映画やアートや文学を感じるのはそれ故だよね。
好きな色の組み合わせはピンクと青。ジョルノが花びらを散らしている絵のやつ。
あの…その絵のカードちょうど宝塚まで連れてきてるんだが…偶然とはいえピンポイントすぎた。
東京都の水道水で顔を洗っている。
私も東京都の水道水で毎日シャワーを浴びている。これは、期待してもいいのだろうか?
振動するマシンに乗って体幹を鍛えている。
ロングブレスダイエットは?ねえ、ジョジョリオンを読んでロングブレスダイエットを日課にしてしまったファンを置いていかないで。
アシスタントにコーヒーを淹れるのが日課。
先生のコーヒーが飲みたくてアシスタントを志願する者が続出するんじゃあないか。やはりSBRに出てきたような真っ黒で砂糖をたくさん入れたコーヒーなのだろうか。
(春のおすすめパスタは)ハマグリに菜の花のパスタ。スパゲティは柔らかくてもいい。
え、柔らかくていいの?なんとなく先生はアルデンテに強いこだわりを持ってそうだと思ったんだけどな。なるほどソフト&ウェットなものが好きなのか…
アシスタントは三人。
なぜかアケミ・レイコ・ヨシエが思い浮かんだ。まあカーズ・エシディシ・ワムウでも良いが。
(自身は)誰かのアシスタントをしたことはない。
手伝いに行ったことくらいならあると言ってたかな。マジかよ。どうにかうちにも手伝いに来てくれないだろうか。IKEAの家具とか組み立てる時マンパワーが必要なので。
好きな世界遺産はパドヴァ植物園。産地とかを見ているとおもしろい。いつまででも居れる。
…我が意を得たり。
旅で大変だった場所はハワイの火山。
取材で訪れたハワイの溶岩だらけの火山が大変だったとのこと。ちなみにハワイ島の火山も世界遺産なのだがそれはあまり知られていない。
オードリー・ヘプバーンのフィギュアを持っている(マイフェアレディ)。
はいここで唐突にジョジョクイズを一問。[Level:★★★]ミドラーの声がオードリー・ヘプバーンに似てると言ったのは誰でしょうか。正解は…まあ3部でも読み返してね。
アシスタントに三回同じことを言わなきゃいけない時にイライラする。
ルカさん…1度でいいことを2度言わなきゃいけないってことは… 〜中略〜 3度目は言わせないでくださいよ。まさにこれすぎて無駄無駄されそう。
漫画だから人間がしないようなポージングにしている。
ジョジョ…人間ってのは能力に限界があるなあ、とかつて言った者がいたが、限界を突破したポージングを描く創造主とそれを真似するファンとの終わることのない戦い、人はそれを「ジョジョ立ち」と呼んだ。
間違って同じ巻を買わないように表紙のカラーを塗り分けている。
先生自身も同じ本買ってしまったりしたことあるらしい。わかるよ先生、私もそれやったことある。あの時の絶望感ったら無いよね。貯めてたポイントを失効させてしまった時と同じ類の自己嫌悪に苛まれるもんね。
怒る時には、むしろ泣いてみる。(逆に考えるシチューションを問われ)
怒る時に泣くというのは、それはもうエシディシなんよ。激昂してトチ狂いそうになると泣き喚いて頭を冷静にするって作中ではっきり言ってるんよ。先生あれリアルだったってこと?つまりあのくらい泣けってことね。承った。
月一で山に行く。
荒木先生は自然に没入体験している。貴重な休みをそのように使うのだからよっぽど自然に傾倒しているのではないか。
好きな神社は熊野本宮大社。
ジョジョファンには有名な、先生がお守りをデザインした神社だ。たまたま熊野古道の参詣道を歩いていたら宮司さんにお会いして依頼を受けたそうな。なにそれやばい。いろいろやばい。
外伝禁止だったけど、岸辺露伴を描いた。
今風に言うとスピンオフ禁止。それでも強行して描いた結果今や露伴はメディアミックスされた一大コンテンツになっている。先生をして「承太郎より有名になった」と言わしめているのだから面白い。
欲しいスタンドは重ちーのやつ。拾ってきて欲しい…クーポン券とか
クーポン券を喜ぶ人は、ささいなことに幸せを見出すことができる人だ。そのある種庶民的な感覚を忘れないでいられる先生を、愛さずにはいられない。てか重ちーの、って言った瞬間司会のmioさんが「ハーヴェスト」って補足したんだよね。これはすごく印象が良かったね。もちろんそのくらいジョジョファンだったら当たり前の知識なんだけど、ちゃんとわかってる人をキャスティングしたんだなあと思ったシークエンスだった。
人生最大のピンチは、池に落ちて死にかけたこと。
助かってくれてマジで良かった。池に落ちた透明な赤ちゃんがジョースター家に迎え入れられたのはやはり自身の体験からシンパシーを感じた故だろうか。池落ちへの圧倒的解像度よ。
(好きな漫画は)クズ系の漫画が好き。堕ちていく人物を見るのが好き
まじか。あんなにポジティブな漫画を書いている人はネガティブなものを見たくなるのか。広辞苑の「ないものねだり」の欄に用例としてこれを載せるべきだと思う。
手塚先生のおかげでここにいられている、皆さんもジョジョを読んだからここにいる。
ジョジョランズよろしく。ありがとうございました。
最後の挨拶は、因果を大切にする先生らしい言葉だった。
先生、まさかの鼻血トラブル
ところで…ポケットティッシュ持ってるかね?ハンカチでもいいが。
荒木先生、講演中何度も鼻血が出てしまっていた。MCに何度か離席を促されるも頑なに大丈夫と席を立たない先生。おそらくこれは関係者一同大いに焦ったことだろう。大丈夫と言われてしまっては無理やり舞台から下げるわけにもいかないのだ。絶対に離席させたい周囲 VS 絶対に離席しない大御所、というコントの様な構図を我々はリアルタイムで目撃することとなる。興味深いお話と並行してこのスリリングな状況が展開されていくのだ。なんというトークショーだ。
最終的には折れた先生が中座するのだが、戻ってきた時にはティッシュを鼻に詰めてらっしゃった。いやなにそれ。全くもってエピソードに事欠かない御仁である。
たださすがに、先生のことを大好きな人で埋め尽くされた会場において当の本人が流血しているのはちょっと気が気じゃないぞ。病気でないといいのだが、「乾燥で…」と仰ってた気がするからおそらく冬場は良くあることなのだろう。全く、びっくりしたよ、新手のスタンド攻撃かと思ったもんね。あれだけ多種多様なスタンドが出てきたジョジョにおいてもさすがに鼻血をださせるスタンド使いなんて居ない……いや、いるわ。スピードキングだ。常敏来てただろ多分。駐車場にランボルギーニガヤルド停まってなかった?
他にあったことなど
ユニバーサルアクセシビリティ
これびっくりしたんだけど、手話の人とリアルタイム字幕が用意されてた。応募の時点でも「車椅子とかなら言ってね(意訳)」みたいなこと書いてあったし、座って話が聞ける小学生以上の荒木先生を敬愛する人間なら誰でもウェルカムって感じだったね。市長の肝煎りだろうか、さすが自治体絡んだイベントだ。なにがなんでも成功させてやると言う意志が感じられた。
SNS禁止
一部分だけ口外禁止令の出た内容があった。正確には「SNS禁止で」と言われたのだが本ブログでも割愛させてもらった。この内容が出回るか出回らないかであそこに居たジョジョファンの民度が試される。皆さん、駄目ですよ。まあ憶測が憶測を呼んで「9部のラスボスが明かされた」とかまことしやかに噂されるのならそれはそれで面白い。
キャラの呼び方
このトークショーを通じて、何度か荒木先生が自身のキャラクター名を言う機会があったのだが、なんとしっかりフルネームで呼んでいた。ジョセフ・ジョースター、ジョルノ・ジョバーナ、岸辺露伴、といった具合である。創造主ですらちゃんとフルネームを使うのだからファンである私はもうさん付けとかきちんと敬称等つけるべきなのじゃないか?これからはブローノ・ブチャラティさん、ファニー・ヴァレンタイン大統領閣下などと呼ぼう。
ジョジョランズの発音問題
司会のmioさんはThe JOJOLandsをジョジョランズと頭にアクセントをつけて呼んでいた。え、それが正しいのだろうかと思ったが荒木先生はジョジョランズと「ラ」を強調して発音していた。私も先生派だったのでこっちが正解ってことでいいかな?いいよね。先生がそう言うんだもんね。
昔はよく「スタンド」もこの問題が取り沙汰されていたよね。テレビシリーズが始まってからは収まったけど、「スタンド」(タを強調)なのか「スタンド」(平坦)なのか議論の的だったね。あなたはスタンドとスタンドどっち派だった?ちなみに私はスタンド派。へー君はスタンドなんだ、スタンドじゃなくて?(スタンドのゲシュタルトがバラバラと音を立てて崩壊していっている)
閑話休題。
私に起きた素晴らしい黄金体験について
さて、タイトルにもあったとおり、私はこのトークショーで奇跡とも言える黄金体験をすることができたのだが、それについて紙幅を割いても宜しいだろうか?ダメだ、という声が聞こえなかったため話を進めよう。
結論から言うと、私の質問が読まれた。そして回答をもらえたのだ。ああ、なんということだろうか。あろうことか私の疑問が荒木先生の脳に受容され(!)、先生はそれについて考え(!!)、そして回答が神の口から語られたのだ(!!!)。
それだけでも東京から行ってよかったと思えたし、幸福なことこの上ないのに、その回答があまりにも完璧だったのである。
我々は作品を読ませてもらっている立場で、それはあくまで作者から読者へ向けた片方向の営みであり、仮にこちら側から何か感動や愛を向けることが出来たとしてもそれもまた片方向、しかしそうあるべきだとも思っている(仮に読者の要求や感想が作品の結末を変えるなんてことは絶対にあってはいけないはずだ)。
だとしたら、作者との対話は永遠に不可能なのだろうか。私はこの問いには自信を持って「不可能だ」と答えていただろう。今までならば。
トークショーの質問コーナー、降って湧いた様に与えられたこの絶好のインタラクティブな機会を、逃すわけにはいかない。
あなたがもし、一つだけ、荒木先生に質問ができるとしたら何を聞くだろうか?
荒木先生に質問できる
質問ができる、という事実を知ってからずっとそのことばかり考えて過ごしていた。そして悩むこと数日、締め切りの日が来てしまった。私は観念して質問をするためのウェブサイトに接続した。どうやら、「e-ひょうご」という、兵庫県が運営しているサイトから申し込むとのことだった。税金などの電子申請ができるサービスなどがあり、アクセスしたことがある人ならわかるかもしれないがデザインからしていかにもお役所が作りそうな簡素な感じである。そんなシステムを使って質問?ちょっと身構えながらも背筋を正して入力する。個人情報を全て明かした上でする質問だ、絶対にふざけるわけにはいかない。
聞きたいことは山ほどあるが、複数送ってしまったらひとつも読まれない可能性はあるだろう。特にルールについては書いていなかったが念の為、だ。一つだけ、これだという質問を送ることにした。
作品の解釈について、誰だって作者に聞きたいことはあるはずだ。あのキャラってこうなんですか?実はあのシーンの意味ってこうなんですよね?とかだ。だがやはり、それらの質問は候補から排除した。だって、なんか野暮じゃあないか。わざわざそんなこと聞くなんて。私たちは提供された作品自体を楽しめば良いはずなんだ。
だから私は、自分にまつわる質問をした。先生の作品を読むことによって動いた自分の人生の、その延長線上の話だ。
少し自分語りを良いだろうか(この記事ほぼ自分語りだけども)。私は小さい頃に、ジョジョを読んで、世界に興味を持った。彼らが冒険する、いろいろな国が、その聞いたこともない風習や文化が知的好奇心を刺激しまくったんだ。だから、大学もそっちの方面の分野に進んだ。大人になり、気づけば行った国は何十カ国にもなっていた。パスポートには子供の時分には知らなかった様な国のビザやスタンプが所狭しと並んだんだ。
そして今私は、世界遺産にまつわる仕事をしている(と言っても周辺産業の様なもので、専門家というにはおこがましいが)。なので、純粋な興味で聞いててみた。
「先生の好きな世界遺産は何ですか?」

これが私の質問内容だ。
結果的に質問は読んでもらえて、しかも質問後半の冗長な部分(それって今後作品に出ますか?)はいい感じにカットしてもらえていた。これはもう選者であるmioさんのファインプレーに他ならない。選んで頂いた事と共に改めて御礼を言いたい。
絶妙な回答が返ってくる(パドヴァ植物園)
さて、そして改めて肝心の回答はこちらだ。
好きな世界遺産はパドヴァ植物園。
コーカサス地方・ウズベキスタンなど産地とかを見ているとおもしろい。
いつまででも居れる。
パドヴァの植物園?ーーってあのオルトボタニコ????オ・ル・ト・ボ・タ・ニ・コだと?????
おいおいおい、なるほど、なるほどだぞこれは。
普通好きな世界遺産はなにって聞かれて「パドヴァの植物園」て即答で答えるか?一体どれだけの人がピンと来るんだろうか。簡単にわかりやすく検定レベルで言うと、間違いなく1級レベルの遺産である(4級の誰でも知っているものから3→2→1とマニアック度合いは強まる)。その場所を挙げるとは、普通にタダモノではない。

私の1級認定証。たぶん鈴木亮平とおそろ。
私は膝を打った。こんなに意外で、それでいて納得の回答は無いなと思ってしまったのだ。
知らない人のために説明すると、パドヴァの植物園(オルト・ボタニコ)というのは16世紀に造園されたヨーロッパで最も古い植物園だ。
深い観察と洞察を心がけていらっしゃる荒木先生なので、その訪問は間違いなく作品作りにも活かされているはずだし、近年の先生の作品内における自然に対するアプローチからして本当になるほどなと思わせる回答だった。例えば7部では自然を深く観察しそれを見る事で黄金長方形の回転を生み出しているし、8部では東方家は植物にフルコミットした家として描かれ、果樹園や植物鑑定人、二本松などが重要なストーリーの鍵となる。岸辺露伴は動かないでも自然にまつわるエピソードは少なくない。先生が今パドヴァ植物園を挙げたという事実は、近年の自然への偏重に対するひとつの理由にもなっているのではないだろうか。
しかしそれだけではない、最も重要な点は、この植物園が「ゲーテゆかりの場所」として認知されていることではないだろうか。かつてイタリアを訪れたゲーテはここで独自の自然観や作品の着想を得たという。いまでも園には「ゲーテのヤシ」と名付けられた木があるくらいだ(その木の樹齢は既に数百年であり、ゲーテと荒木先生は同じ木を見ている。まるで時を超えたスタンドの様だ)。
ゲーテと荒木先生の関連性について
ゲーテの代表作と言えば間違いなく「ファウスト」だ。ストーリーを簡単に説明すると、悪魔と契約をし魂を売った男が若返り、あらゆる快楽などの経験を手に入れるという話だ。また、ファウストの一番の名台詞といえば「時よ止まれ」であることを付け加えておきたい。
ここまで聞いて、あなたは何かを連想しなかっただろうか。いや、誰かというべきか。ーーそう、ディオである。己の欲望の赴くがままに悪魔に魂を売り渡し(石仮面を被り)、枯れることのない若さを手中にし、「時よ止まれ」と口走るディオ。奇妙な一致は偶然か、はたまた荒木先生の教養の成せる業だろうか。
全く違うジャンルの芸術作品から着想を得ることを漫画家として大事なことだと話していた荒木先生だから、当然ゲーテの作品を知っていても驚かないし、ディオのファウスト感は以前感じたことはあったのだが先生本人の口からゲーテに対する言及は今まで多分なかったので、おそらく思い過ごしだと思っていた。しかしまさか、全く関係ない世界遺産の質問からそこに繋がるとは嬉しい驚きだった。
ゲーテと荒木飛呂彦、時代をも超越した二人の創造者が同じ場所で着想を得るというこの偶然よ。
また、余談だが黄金の風アニメ版第一話冒頭でナレーションによって語られる「ネアポリス(ナポリ)を見て死ね」という言葉もゲーテが残したものだということを付け加えておきたい。やはり両者は同じ場所に強く惹かれているのだ。
ゲーテと手塚先生の関連性
しかし偶然はそれだけではない。ファウストを日本において漫画化した人物がいるのだ。それが何を隠そう手塚治虫なのである。しかも彼は人生で三度ファウストを漫画化している(「ファウスト」「百物語」「ネオ・ファウスト」)。同じ原作を三度とは、はっきり言って異常である。しかも時期はキャリア初期・中期・最晩年ともはや生涯を通じて挑んでいるようにさえ感じるのだ。ネオ・ファウストに至っては癌に侵されながら病院のベッドで描いていたほどであり、最終的には未完の絶筆となった。
また、ライフワークとも言える「火の鳥」の未来編では猿田博士によって2ページに渡ってゲーテのもう一つの代表作「若きウェルテルの悩み」が引用されている。文学作品からの引用としてはこれも普通ではない長さだ。間違いなくゲーテは手塚治虫にも多大な影響を与えていただろう。いや、影響だとか古典への造詣などという凡庸なカテゴライズで片付けていいとも思えない。そんな気がしてしまうほど偏執的なのである。なぜそこまでゲーテにこだわったのだろうか(詳しい方が居たら是非とも教えていただきたい)。
火の鳥未来編といえば、ジョジョ6部のラストとの共通点が伺えると思うのは気のせいだろうか。いや、共通点どころかあれはオマージュなのではないかと思うほどである。因果や輪廻、そしてあまりにも圧倒的なスケール感といった具合に、(両者を未読の方のために特に詳細については書かないが)意識化であれ無意識下であれ荒木先生が未来編からインスピレーションを受けていると考えるのは自然なことのように思えるのだ。
また、猿田博士はスターシステムでブラックジャックでは本間先生として登場している。「本間先生はスタンド」という荒木先生の発言も偶然としてはあまりにも出来過ぎな気はしないだろうか。
これらの一連のつながりに気付いた時、私は大声で「ヘウレカ!」と叫びそうになってしまった。つまり荒木先生は、手塚治虫記念館のトークショーとして、これ以上ない120点満点の回答をしたということだ。
この、神回答を引き出した質問をした人は誰??(こいつにスパゲティを食わしてやりたいんやりたいんですがかまいませんね?)
閉幕
かくして、トークショーは幕を閉じた。割れんばかりの拍手を浴びて退場していく荒木先生。生身を見れるのは最後かもしれない。しっかりこの目に焼き付けながら、壇上を後にする創造主を見送った。
鼻血が出ても、時間を過ぎても丁寧に質問に答えてくれた先生。本当に…「ありがとう」…それしか言う言葉がみつからない…
名残惜しさに後ろ髪を引かれながら、規制退場の波に押し出されるように会場をあとにした。皆一様に幸せそうで、良い大人が童心に返ったような表情をしていた。確かにそこには最初から最後まで幸福が満ちていたんだ。宝物のようなおめでたい空間ーーもし私があの会場の命名権を得られるなら、多分「宝寿の間」って名前にすると思う。
終わりに
宝塚ホテルを出ると、外はノーヴェンバー・レインではなく三月の小雨がしとしとと降っていて(鎮魂歌が静かに奏でられそうだった)、でも足取りは軽くて、トークショーの余韻を全身に纏いながら駅まで向かった。本棚の決して狭くない一角を紫色に染めたであろう人々が、作り物のような宝塚の街を後にし、それぞれの街へ、それぞれの日常に帰っていく。
阪急電車に揺られながら、ふと思った。本間先生とブラックジャックの関係は、まるで手塚先生と荒木先生のようだ。命を救われたことによって医者になったBJ、手塚賞で見出されて漫画家デビューした荒木先生。そう考えると、本間先生がスタンドの様だというのは極めて示唆的である。
荒木先生は吸血鬼や波紋使いと言われるが、やはり(技術を極めたタイプの)スタンド使いなのではないだろうか。件のBJのように苦悩する時、あるいは命や自然についてペンを進める時、荒木先生の背後には手塚先生が現れているのかもしれない。
今回、手塚先生をはじめとした先人からいかに荒木先生が影響を受けてきたかを聞くことができた。しかし話はそこにとどまらず、荒木先生が次の世代へ、まさに今漫画家を目指す人々へのアドバイスやメッセージも少なくなかった。時代を超えて連綿と続く伝統や思想、技術や作法を「文化」と呼ぶのだとしたら、まさに漫画文化が継承されてる事実を再確認させてもらえる、そんな貴重なトークショーであった。
ジョジョがずっと描き続けてきたのは「継承」だ。バトンを受けた者は全力で走り、次の走者へバトンを渡す。もちろんそのバトンは漫画家を志す者だけでなく、我々読者にも渡されているのだ。
「去ってしまった者たちから受け継いだものはさらに『先』に進めなくてはならない」ーーこのセリフが、言葉ではなく心で理解できた。
蛍池という駅でたった一駅分のためのモノレールに乗り換えると、ほどなく空港に着いた。ジョセフ・ジョースターさんならウォークマンでGet Backを聴くだろうか。

ラウンジからの眺め。もうすぐ東京へ。
おそらく一生に一度の貴重な体験ができたことを、大切に胸にしまっておこう。毎日To Be Continuedされる人生は平坦じゃあないし、降って湧いたような不条理や新手の困難が待ち受けているだろうけど、今日を思い出せば大丈夫だ。「やれやれだぜ」って呟けば、大抵のことは対処できるんだ。
我々は運命の奴隷だけど、ちゃんと泥ではなくて星を見ることができるはずだ。
てかあんたも好きものだよな、こんなプライベートな記事を最後まで読むなんてな。それだけきっとジョジョが好きなんだよな。わかるよ。
じゃあ最後に、衒学的で気が引けるんだが、ひとつゲーテの言葉を引用して結ぼうか。
We are shaped and fashioned by what we love.
人間はみずからが愛するものごとによって、形づくられる —ゲーテ
気が合うなゲーテ、私もそう思ったばかりなんだ。
私たちはきっと、ジョジョで形づくられている。
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