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1/300のストーリー。渋谷タワレコ・X JAPANのサイン会に行ってきた。

公開日: : 音楽

私はXを恨んでいる。Xに人生をめちゃめちゃにされたのだ。なに、接触イベントをやるだと?はははXも落ちたもんだ。そうか、じゃあ行ってやるよ。なんせ私はXのせいで人生が台無しになったんだからな。

X JAPAN プレミアムサイン会やるってよ

2017年、弥生のある日、突如その発表は投下された。タワーレコード渋谷店にて映画『WE ARE X』オリジナル・サウンドトラックを購入した人の中から抽選で300人が招待されるというのだ。
日本中のXファンが僅か300の当選を奪い合うのだからこれはもう行けると思うほうがおかしい…と思っていたのだがよくよく見ると強烈に人を選ぶイベントだった。
まず、平日の真昼間に開催されるという点で多くの定職をもった一般的な社会人は行くのが難しい。数週間前からわかっていたら余裕の有給申請なんてものも出来るだろうがなんせ直前すぎる。どのくらい直前かというと「14日にいきなり告知、15日〜16日までに渋谷でCD買った人の中から、17日の昼間に集まれる人を選ぶ」という鬼スケジュールなのだ。あまりにも前から発表したりしようものなら当日全国各地から集結したXファンが当選券もないのにタワレコを囲んで「WE ARE」「X!!」のシュプレヒコールをエンドレスでやり続けるのを懸念したのだろう。たぶん。

私はというと

そのニュースを知ったのは遅ればせながら16日だった。16日の18時までにCDを買えば抽選券が貰えるらしい。20時とか閉店までとかじゃなくて18時なのである。何か意味あんのか。あくまで人を選ぶ選民イベント、プレミアムサイン会。

私の職場はなんと、渋谷である。この時点で私のアドバンテージが遺憾無く発揮されたも同然である。ちょっとそこまで、のノリでCDが買えるのだ。ちょっと遅めの昼休み、小走りでタワーレコードのエレベーターに駆け込み乗車してやった。
屋上の特設会場に着くと、客はまばらだった。店員のお兄さんの前に立ち、くださいなと言いかけた私の台詞に被せ気味に彼は言った。
「何枚ですか?」
「えっ」
「えっ」
何枚?何枚ってなんだ。CDは一枚あればじゅうぶんだろう。あれか、保存用ってやつか。否、これは抽選イベントなのだ。買えば買うほど当たる確率が上がるのだ。なんて鬼畜なことしやがる。今度は金で人を選ぶのか。暇と金のある人間向けなのかXは。おいおい。
「一会計で5枚まで購入できます」
「…5枚?」
「はい、5枚です」
ガチ勢がタガを外さないための最後の良心なのだろうか。上限を撤廃したら有り金全部はたいて買う輩もいるのかもしれない。だって、Xのサイン会なんて、またある保証なんて無いんだから。
ここで私ははたと考える。憎きXのサイン会に参加したいがためにそんなに大金を使っても良いのだろうか。さくっと1枚買って運を天に任せればいいじゃないか。握手会商法で複数枚売るアイドルを蔑視してたじゃないか。
「5枚で」
我に返るとNO MUSIC NO LIFEの黄色いビニール袋に入った5枚のCDを持って帰りのエレベーターに乗ってた。なにこれ怖い。

ああ、遂に私も複数買い商法の甘い罠に嵌ってしまった。でもまあ、このくらいの金くれてやる。よく考えたらティーンの頃買ったVanishing VisionもBlue BloodもJealousyもART OF LIFEも地元の中古CD屋で手に入れたものだった(DAHLIAは兄が私より先に買ってきた)。それでも定価の7割くらいの値段はしたんだけども。とにかくあの頃は金が無かったから。本当に擦り切れる程聞いた。まあCDだから擦り切れないんだけど、とにかくそれくら聞いた。むしろ聞きすぎてCDプレーヤーの方が何台もぶっ壊れたっけ。はは、くだらない昔話だ。とにかく、この金の一部が奴らXに渡るのなら、その時の借りを返したってことでいいだろう。中古で買って悪かったな。でもこれでもうチャラだ。心置きなくXを憎めるってもんだ。
wearex
くそ、積んでてもしょうがねーから伝道師になって友達にでも広めてやる。勘違いするなよX、私は資源の無駄遣いが嫌いなだけだ。

当選発表

16日23時半、ウェブ上にて当選結果発表だった。何故か酷く胃が痛み、緊張が体中を支配しているのがわかった。入試や資格試験の発表と同等の感覚だ。クソ。なにをそんなに恐れてるんだ。そんなにXに会いたいのか?そんなはずはない。馬鹿馬鹿しい。でも、ああ。クソ。しばらくは結果を見られずに0時を過ぎて震える指で当該ページのリンクをクリックした。

一枚目、無い。
チッ。

二枚目、無い。
ええ…

三枚目、無い。
いやだ。

四枚目、無い。
神様…

五枚目、………有った。

x サイン会 抽選券 当選

番号を見つけた瞬間声も無くベッドに崩れ落ちた。数秒後に実感が全身に伝わりあああああああと言う情けない声が漏れた。軽く涙目だった。子供の様に大事に握りしめたまま寝たかったが汚損破損紛失を恐れて神棚(と呼んでいる私の実印やパスポートがある聖域)にそっと置いておいた。電気を消してもなぜかそわそわして眠れなかった。あれ、番号合ってるよね?と飛び起きてまた確認してしまった。ダブルチェック、大事だもん。

タワレコで整理券と引き換える

翌朝、ふわふわした足取りでタワレコに向かった。ああ、今日も仕事だ。手につかないよもちろん。
会場に近づくとなんか雰囲気が物々しい。スーツ姿のスタッフがやたら多い気がする。そして何よりテレビクルー。どんだけ撮ってんだよ恥ずかしいわ。こちらです、と案内され抽選券をお姉さんに渡した。番号の照会が終わり抽選箱に手を伸ばす。
x サイン 抽選箱
一枚握りしめそそくさとその場を離れた。エレベーターの中で番号を確認する。
ito_seisoku_x_japan
ひゃくうんじゅうばん台。300人中の1xx。可もなく不可も無い番号だ(後ろに何故か世界のセーソクが見切れてるのはご愛嬌だ)。
職場に戻って今や遅しとサイン会の時を待つ。緊張が止まらない。吐きそうだ。

しばし自分語りを

眩しすぎる光というのは罪だ。本当に、あまりにもまばゆくてその光にアテられてしまう。私が田舎で順調に心と身体を育んでいた頃、Xは、それはもう眩しかった。輝いてるなんてもんじゃない。光そのものだった。忌々しきあのバンドは日本中のギターキッズのアコギをエレキに変えさせたし、チューニングを半音下げさせたし、無駄に音を歪ませたりさせた。御多分に漏れず私もその波に飲まれた。抗えなかったのだ。そしていわゆるバンドというものを結成した。

卒業文集に将来ミュージシャンになるとでも書いたんだろうって?そんなベタな展開…ああ、そうさ、書いたさ。その時から自分に夢という呪いを掛けていたんだ。本当に残酷な呪いだよ、全く。東京に出てきた私の青春時代は全て音楽に捧げられた。ゴマンといる卵の中で成功できるのなんてほんの一握りだ。少しずつ動員を増やしたり、デモテープを作ったり、ああ、こうして書いていると本当に昨日のことにように思い起こされる。

結論を言うと、夢は叶わなかった。言い訳のようだが、いいところまでは行ったんだよ。CDだって出したし、そうだ、渋谷でワンマンライブだってしてそこそこ人を集めたりもしたんだ。「テレビ出てたよね」って旧友から連絡をもらったりもした。でも結局、生まれては消えるシャンパングラスの中の気泡のような、そんなワンオブゼムなユニットだった。今はもう、私が音楽をやっていたなんて周りは知らないと思う。

ああそうだ、全部自分のせいだ。売れなかったのも、人気が出なかったのも、自分に才能が無かったからだ。魅力が足りなかったからだ。
でも誰か敵を作らなくちゃ自分が壊れてしまいそうだったんだ。そうだ、全部Xが悪い。恋が叶わないのは自分のせいじゃなくて相手のせいだという危ないストーカーのような心情でなんとか自我を守った。八つ当たり?うるさい全部Xのせいだ。この世には因果がある。原因と結果だ。私の音楽の結果が挫折ならば原因は音楽を始めた動機だ。Xだ。

時間だ、いざ参らん。

本人たちを前にして何を話そうか、なんてことを考えながら痛くなる胃をさすりさすりタワーレコードへ再訪した。集合時間には不幸にも券を手に入れられなかったファンたちが入り待ちの人垣を作っている。
x タワレコ 入り待ち
どこのロックスターだよ全く。いや、紛れもないロックスターなんだろう。今の日本にロックスターと呼べる対象がどれほどいるだろうか。Xは良くも悪くも日本を代表するロックスターだ。クソ。

階段に並ぶ。選ばれし300人だ。このひとりひとりが私と同等の、それ以上の想いを持っているのだろうか。しかし、一向に列が進む気配はない。ああこれは押してるんだな。相変わらずだな。折角足を運んでやったのに人のこと待たせやがって。なんだ、もしやあれか?カレーが辛いのか?シャワーが熱いのか?はたまたシャワーが辛いのか?
ああ、もう。痛いんだよ、胃が。なんなんだよこれ。誰か助けてくれよ。いったいどれくらいの時間が経ったか考えるのも嫌になった頃に会見が始まったらしい。声が会場から漏れ聞こえてくるのだ。実は先頭の70人だけは会場内で会見まで見れる。私は階段に響く音漏れに何度目かの舌打ちをした。

Xのどこがイラつくのかを考えてみた。ライブを思い起こす。「Introducing……X JAPAN..JAPAN..JAPAN」ジャパンのリフレインの後にハープシコードのアルペジオが鳴り響く。焦らされるほど高まる、音源より長いそのアルペジオの後にYOSHIKIがカウントを入れる。爆発と同時に鳴らされるレギュラーチューニングのFのパワーコードはカタルシスそのものだ。ちくしょう、最高じゃねーか。

ダメだ、どの瞬間を切り取っても、思い出せば思い出すほど、好きなところしか見つからない。なんなんだよ。ふざけんなX

握手会、開始。

列が、動き出した。いよいよもう胃が口から出てきそうだ。言うぞ。言うんだ。どれだけXに翻弄されたかを。私の人生のルサンチマンを今ここで解き放つのだ。もうどんな罵詈雑言になるか自分でもわからない。口をついて出た言葉が本音なのだ。

サインをもらうブックレットをスタッフに渡した。私の前の人がメンバーの前に立った。次だ、いよいよ次だ。X。あのX。サイケデリックバイオレンスクライムオブヴィジュアルショック。あのXだ。身を焦がすほど憧れて狂おしいほど想い続けたXだ。だめだもうだめだよ。ずるいよ。なんなんだこの気持ちは。ちくしょう。今死ねって言われたらもう死ぬよ。いや、あと一瞬待ってくれ。あと数分。彼らと言葉を交わすまで待ってくれ。

………瞬きよりも短く、永遠よりも長く感じた握手会は、気づいたら終わってた。手元には五人のサインが入ったブックレット。多分、半泣きだった。あくまで自分の名誉を守るために半泣きって書いてるけれど、全泣きだったことは口が裂けても言えない。…書いてるけど。

で、奴らに何を言ったかって?ひとりひとりを目の前にして自然と出てきた言葉は、「ありがとうございます」だった。だって本当にそう思ったんだもん。あんなにも憧れた人たちを前にして、か細い声で絞り出した台詞は、なんの変哲もない感謝の言葉だった。勝手に逆恨み続けた私の目をしっかりと見据えて、微笑んでくれたメンバー。なんなんだよ。どんだけファン想いなんだよ。これだからXは。ちくしょう。ちくしょう。

融解

私は、本当は全部わかっていた。緊張の理由も、どうしても自分がサイン会に行きたかったのかも、わかりすぎるほどわかってた。

私の人生を台無しにしたのは、Xじゃない。そもそも台無しになんてなってない。今日という一日、なぜかずっと自分の人生を振り返っていた。まるで自分のルーツを辿る旅をしたかのように。音楽を通して出会った仲間や、かけがえの無い経験や、挫折や、その他諸々。もはやそれは私の血と肉なのだ。人生は連続しているのだから、ある一点が違えばその先の自分は別人だ。もし仮にXに出会って無くて、音楽をやってなくて、そんな自分でも良かった?と自問してみた。答えは否だ。
今渋谷のわけわかんない企業でわけわかんない仕事してるけど、それの何を恥じることがあるだろうか。ミュージシャンにはなれなかったけれど、私のする何かが世界を変えることだってあるかもしれないんだ。
心の氷塊がすうっと溶けていくのを感じた。それこそもう、最終的かつ不可逆的に。
x japan サイン

私は神棚(と勝手に呼んでいるパスポートやお守りが鎮座するサンクチュアリ)にサイン入りCDを立てかけた。
たぶん、明日からの人生のBGMにまたX JAPANが鳴っている気がする。

P.S. もし私の親族か近しい人がこの記事を見てたら、一つお願いがある。
私が死んだ時には棺にこのCDを一緒に入れてほしい。あっちで残りのメンバーのサイン貰うから。

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Comment

  1. momo より:

    XJAPAN愛がひしひしと伝わってきて、共感する部分も多すぎるほどあり、とても楽しく読ませて頂きました。
    実は私もそのサイン会に参加しておりました。大阪から2泊3日の旅でした(笑)
    7月の大阪城ホール、横浜アリーナも参戦します。
    筆者様も参戦されるのであれば、またレポートを楽しみにしております。

    • sacry より:

      大阪からでしたらさぞ大変だったでしょう
      サイン会のために2泊…しかも確実に参加できるかどうかわからない状況での英断に頭が下がります。
      こんなことを言っては参加できなかった方々に申し訳ないのですが、本当に特別な体験をできたなと今振り返っても思います。
      7月(彼の体調が気掛かりですが)楽しみましょうね。

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